何故、松江市が行う企業向けワーケーションは『松江ファン』を続出するのか。
そこにはコミュニケーションが生む『架け橋』がありました。
そもそもワーケーションって?
皆さんは『ワーケーション』という言葉を聞かれたことはありますか?
一般的にはWork(ワーク)とVacation(バケーション)を掛け合わせた造語で、普段過ごす職場を飛び出し、観光地やリゾート地で仕事を行うという時間や場所に捉われない働き方です。
「日本におけるワーケーションの概念は、2010年代後半から徐々に注目を集め始めました。もともとは欧米で普及していた「Work」と「Vacation」を組み合わせた働き方で、仕事と休暇を両立させる新しいライフスタイルとして紹介されました。国内での本格的な取り組みは、2019年に観光庁が「新たな旅のスタイル」としてワーケーションを推進したことから始まります。特に、地方創生の観点から、都市部の企業従業員が地方で働きながら滞在することで、地域経済の活性化につながるとして期待が高まりました。また、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大を受けたテレワークの急速な普及に伴い、働く場所の制約が大きく緩和されたことで、ワーケーションへの関心が急速に高まりました。企業側も、従業員の心身の健康維持や生産性向上の観点から、ワーケーションを積極的に導入し始めました。近年では、自治体による受け入れ態勢の整備や、企業の制度化が進み、観光地のホテルやリゾート施設でのワーケーション専用プランの提供も増加。さらに、政府による観光支援策とも連携し、新しい働き方改革の一環として全国各地で導入が進められています。」
そして近年では個人だけでなく、企業が地方に目を向けたワーケーションという取り組みが広まりつつあります。
今回ご紹介する松江市で開催された『企業向けワーケーション』、そこで私が強く感じた「ただ楽しむだけでない、人と人とのコミュニケーションが作り出す可能性」についてお伝えします。
「ワーケーションってフリーランスの人の特権でしょ?」
「企業として地方での事業拡大や繋がりを持ちたい!」
「社内のコミュニケーションや生産性アップをどのようにしていこうか・・・」
このような思いをお持ちの方は、この松江市のワーケーションについてぜひ触れていってくださいね。
島根県松江市で取り組まれているワーケーションは『松江式ワーケーション』と称されています。
何故、〈松江式〉なのか。先程一般的に『ワーケーション』という言葉はワークとバケーションの造語とお伝えしました。
実は松江式は少し違い、『Work(ワーク)+Communication(コミュニケーション)を通じた新しい学び』を体験するものとなっています。
観光だけでは成し得ない、松江ならではの魅力を、地域や地元の方とのコミュニケーションを通して深く体感する。
その人と人との交流があるからこそ、お互いが持つ課題を解決するきっかけづくりにも発展していくことが多いのです。
そこに豊かな自然や食に恵まれたVacation(バケーション)の要素が加わり、松江ファン
が続出し中には移住される方もいらっしゃいます。
近年増え続ける企業向けワーケーション

これまで2019年~2023年の間で開催されたワーケーションは40回を超え、参加企業は約150社、参加人数は300人近い実績を誇ります。
松江式ワーケーションは松江市と松江市に本社を構えるワークアット株式会社のタッグから生まれており、次々と参加者の心を掴み松江への関係人口の増加や移住・定住にも貢献しています。
そしてこのワーケーションただのパックプランではなく、参加者の要望や目的を丹念にヒアリングすることで内容をまるっとお任せできる点も全国の企業より大変喜ばれているポイントの一つなのです。
それでは実際に令和6年10月3〜5日で行われた企業向けワーケーションではどのような内容で実施されていたのか見てみましょう。
今回、都市部の企業が地方の豊かな自然とコミュニティの中で、ビジネスと自己成長を両立させる特別な機会が生まれました。
参加企業LinkedInJapanから6名の社員が参加し、ワーケーションの新たな可能性を追求する3日間の旅を送りました。
1日目 都市部と島根の縁が繋がる
ワーケーションの初日、秋霖の頃もあり空は雨模様。
水の都、松江市はしとやかな雰囲気で秋の落ち着きも感じます。
LinkedIn一行は松江市の宍道湖湖畔にあるニューアーバンホテル内のコワーキングスペースenunにて顔合わせ。
自己紹介を行う中、今回参加のLinkedInの鈴木さんは松江が大好きで半年間でなんと3回も訪れられているとのこと。

そんな松江にゆかりのある方も居られる中、参加者の半数は初めての来訪でそれぞれの期待が交わりワクワクで溢れる穏やかな雰囲気で時が流れます。

松江市役所 定住企業立地推進課の澤端さんとワークアット株式会社代表取締役社長の林郁枝様をはじめとするスタッフの皆さまからご挨拶と3日間の流れが説明され、それぞれの期待が重なります。
この日はLinkedInの皆さんより二部に渡り地域交流会(セミナー&ワークショップ)が開催されました。
一部では、島根県の公共団体を対象に、地域のPRや若者の地元就職支援などの課題についてLinkedInを活用した解決策の議論を行いました。
二部では、学生や社会人を対象とした自律的なキャリアを築くための具体的なLinkedInの使い方を学びます。

LinkedInは、世界最大級のビジネスネットワークとして、個人や企業がスキルを発信し、新たなつながりを築くための強力なプラットフォームです。
ツールやプロファイル作成のノウハウや紹介だけでなく、社員の方直々にセミナー参加者とコミュニケーションをとる時間もありました。
普段抱えている悩みや、効果的な使い方、地域の魅力を外部に伝える方法などが熱く議論が繰り広げられていました。

特に、LinkedInの「ネットワーキングの力」は、都市部と地方を結びつける強力な手段となります。
地域に眠る魅力的な仕事や才能を、都市部の企業や求職者に効果的に伝えるための実践的なアプローチが共有され、地方のポテンシャルが再確認されました。
参加者の声
今回一部のセミナーに参加された松江市役所定住企業立地推進課の門城さんは、「普段抱える具体的な悩みや使い方のヒントなど相談を直接キャッチボールできるところがとても良かった」と活用の糸口が見えたとのことでした。

出雲市役所産業政策課の玉木さんと内田さんは、普段より企業誘致などに取り組まれる中で、「幅広い企業の情報を聞ける機会は大変ありがたいです。我々もLinkedInのようなツールや機会から企業や学生とのつながりを持てる情報を積極的に得ていきたい」と日々に繋がる時間になったようでした。

二部のセミナー参加者の8割は既にLinkedInのアカウントを持たれてはいましたが、スタッフの皆さまと同じテーブルでコミュニケーションをとることで今後使用することでも可能性が見えてきました。
二部のセミナーに参加された成瀬さんは、まさにLinkedInを通して希望の仕事と繋がり、島根移住のご縁を授かった方でした。
これまで効果的な使い方などを模索される中で、LinkedIn鈴木さんの「自分がどう思われたいか」という言葉が胸に刺さり、等身大のビジョンをかかげていきたいと自身の未来が開かれたようでした。
今回のこの企業向けワーケーションがあったからこそ生まれたこの機会、成瀬さんは「都市部の企業と地方が掛け合わさることで偶然にも引き寄せらる出会いがきっかけとなり、この松江にとって面白い化学反応を起こしていく」とこの出会いを心から喜んでおられました。


セミナープログラムの一つにあったLinkedInの國方さんが話された自身のキャリアについて振り返る時間。
國方さんはキャリアと『轍』と例え、自身の経験やこれまでの転職の経緯を赤裸々に語り、聞き手の心を掴みます。

参加者の石倉さんは現在島根大学4回生。まさにこれから自身の轍が出来上がっていくこのタイミングに、今回のお話は大変印象的だったと話してくださいました。
さらに、今回のように「県外の企業やあらゆる経験をしてきた方のお話を直接聞けることが、とてもありがたいこと」とあらゆる可能性を広げるきっかけにも繋がっていました。
セミナー参加者の方の満足度を向上した理由の一つに、「周知」が大きく関わっています。
今回のセミナー開催にあたり、LinkedInの皆さんだけなく、松江市そしてワークアットをはじめとする地域の方が告知の役割を担っておられました。
人と人との繋がりで何よりも安心感を覚え、そして求めている人に情報が届きます。
このような相乗効果から伝える側、受け手側どちらにとっても実りの多い時間が生まれたのです。

松江市役所の担当者である澤端さんは、自身が県外から移住して松江ファンになった一人。
同じように松江市の魅力に触れ、ファンを増やしていきたいという熱い思いに「県外からお越しいただいた際、地元の方と触れ合うことで繋がりが広がっていく。そこから見えてくる松江市の課題を市内だけで解決しようとするだけでなく、県外企業の持つ力を合わせ解決に導くことで、結果、他地域でも課題解決きっかけとなりのその輪が全国へ拡大していくのではないか」とお言葉をいただきました。
企業として新しい土地への進出は慎重になるもの。
ここ松江市のワーケーションではそれを疑似体験できるような広い受け皿を用意されています。
自社だけでなく、市や地元企業が共にどのように進めるかを考えてくださることはとても心強いこと間違いなしです。

1日目のセミナー終了後は、LinkedInとワークアットとの懇親会もかねて国宝松江城近くにある酒匠の店佐香やで地元の味を堪能しました。
島根の地酒や新鮮な地元食材を使った料理がふるまわれ、仕事の緊張感から解放されたリラックスした雰囲気の中で会話が弾みました。
地元の人々の温かいもてなしを感じながら、参加者たちはビジネスだけでなく、松江の豊かな文化や生活に触れる機会を持ちました。
このような交流の場が、都市部の企業が地方に根ざしたビジネスを展開する第一歩となり、新たなパートナーシップを築きます。
2日目 観光では感じられないコアな部分に触れる
2日目の朝、LinkedInの皆さんは出雲大社を訪れました。
出雲大社は、縁結びの神として知られ、全国から多くの参拝者が訪れる有名なパワースポットです。
この歴史的な神社の静かな空気の中で、気づけば自分自身と向き合うきっかけが生まれます。
神秘的な空気で包まれ、自然を感じられる出雲大社で今回のワーケーションのように、人と人の縁がまた結ばれることでしょう。
ワーケーションの魅力は、ただ働く場所を変えるだけでなく、こうした特別な時間を持つことで心をリフレッシュし、新たなエネルギーをチャージできることにあります。
その後、松江市内に戻り、水の都松江にて120年以上続く米田酒造にて酒蔵見学と利酒体験が行われました。
島根県の厳選されたお米、そして松江市郊外から毎日汲む湧き水を使用して、長年の職人達の腕で少しずつあの美味しさが出来上がっていきます。
代表銘柄「豊の秋」は全国新酒鑑評会で11回金賞を受賞されています。


米田酒造の企画営業を担当される原さんの案内のもと地酒の製造過程を見学。
なかなか入ることができない歴史ある空間に湧き出る質問にお答えいただきながら、日本酒が出来上がる工程を学びます。
酒蔵を後に、一行は店舗の奥にある日本庭園に囲まれる茶室「豊秋庵」にて地元の特産品とのペアリング体験が始まります。

3種の銘酒と、地元の食材を使った「アテ」のマリアージュが、参加者たちの五感を満たしました。
松江市は日本三代和菓子処でもあり、アテの一つには和菓子があることに一同驚き!新しい和菓子と日本酒の口溶けの虜に。


地方ならではのこのような体験は、普段のビジネスとは異なる視点から、新たなインスピレーションを得る貴重な機会です。
利酒体験の真っ只中、ここでなんと!もう一つのイベントが同時進行で進みます。
今回のワーケーションでもう一つのメインイベントとして楽しみにされていた「宍道湖の夕陽」。
別れて見に行っていた参加者とテレビ電話を繋ぎ、夕陽を眺めながら日本酒を嗜むというなんとも贅沢な時間が生まれます。

体験後それぞれペアリング体験で気に入った地酒や、人気の本みりん「七宝」など沢山の製品を購入されていました。
ワーケーションから帰って米田酒造さんの製品を口にする度に、またこの日のことを思い出していただけることでしょう。

2日目の予定も終了し名残惜しさもある中、今回のワーケーションをアテンドしたワークアット株式会社の田中さんからLinkedInの皆さんへお土産を贈呈。
短い期間の中でも、他に変え難いとても濃い時間を共に過ごしたお互いが「ファン」となり、再会の約束をされる様子に胸を打たれました。

寂しさと素敵な出会いに感謝が溢れる中、LinkedInの皆さんは夕食会場に向かわれます。
見送る背中を見つめ初日よりもさらに打ち解けて居られる様子にこの数日間の意義を感じました。

3日目 帰路に着きながら感じる『これからの可能性』
最終日である3日目は、参加者それぞれが松江やその周辺を堪能し帰路に着きます。
ワーケーションの魅力の一つは、仕事でもプライベートでも地域の人との繋がりやその土地ならではの自然を体験できることです。
フリーな時間を通じて、参加者たちはさらに松江の隠れた魅力を発見に繋がったり思い出が蘇ったりと、自分自身を見つめ直す貴重な時間を過ごされていました。
こうした体験は、日常のストレスを解消するだけでなく、仕事に対する新しい視点や柔軟なアイデアを生むためにも大切な機会に繋がっていると感じます。
参加されたLinkedInの岩本明子さんは幼い頃より山陰にゆかりがあり、家族と何度も来られたことがあるということでした。
今回は会社の皆さまとの松江ワーケーションをとても楽しみにしておられました。
3日間の感想をインタビューしました。

記者(以下 記):今回松江へのワーケーションを決めた理由は何ですか?
岩本さん(以下 岩):チームメンバーの一人が松江に何度も訪れたことがあって、松江の魅力を熱く語ってくれていたので絶対行きたい!と思い参加しました。
記:ワーケーションのプランを決める時に意識されたことはありますか?
岩:普段なかなか接することのないメンバーとの交流や、観光を楽しむこと。それとLinkedInで島根の方のお役に立てる機会になるといいなと思っていました。
ほぼワークアットの皆さまにお任せ状態で、こちらの要望を簡単に伝えただけで素敵な提案をたくさんしてくださり、必要なものを先回りして用意してくださったことに感激しました。
セミナーも一緒に作りあげてくださり、地元の方がファシリテートしてもらうことで緊張感もほぐれ、皆さんのお力なしではこのような良い時間になっていなかったと思います。一緒に働きたいくらいとても優秀で素敵な方々です。
記:ワーケーションに参加することで働き方にどのような影響を期待しますか?
岩:リフレッシュになるのはもちろんですが、いつもと違う場所だからこそアイディアが生まれるきっかけになると思います。
記:島根や松江の方に伝えたいことはありますか?
岩:出雲大社だけでなく、住んでいる皆さんが普通だと思っている景色の色は他にないものだから、それを一緒に広めていくことがLinkedInと一緒にできたらいいなと思います。
記:最後に、ワーケーションいかがでしたか?
岩:めっちゃ楽しかったです!ここで働きたいなくらいにさらに好きになりました。
岩本さんの表情が初日から徐々にほぐれていく様子を拝見し、心から楽しんでおられる姿にこちらまで嬉しい気持ちに。
普段見ようとしていない、豊かな資源や魅力にこちらが多くのことを学ばせていただきました。
まとめ
今回のワーケーションを通じて、LinkedInの皆さまは松江の豊かな資源に心がほぐれると共に、地方のビジネスチャンスを広げる可能性に触れられていました。
LinkedInの特徴である「つながりを築く力」は、都市部と地方を結びつけ、ビジネスや個人の成長に貢献する重要な役割を果たします。
さらに、LinkedInを通じて構築されたネットワークは、単なるビジネスの道具にとどまらず、地方に住む人々と都市部の企業が共に成長するための「架け橋」となります。
地方での事業展開やリモートワークの環境整備、地方からの人材獲得といった現代の課題を解決するためには、こうした新しいつながりが必要不可欠です。
ただ、まだ地方に馴染みのない企業やツールを浸透させるにはそれ相応の気力、労力が伴います。
ですがそこに地域に根付き、互いを繋げてくれる存在が居ればどうでしょう?
今回担当されたワークアット株式会社の田窪さんにワーケーションが始まる前にお話を伺った時、このような言葉を伝えていただきました。
「我々はインターミディエイターの存在を目指しています。地方のことを理解しながら都市部の人とも会話ができる、通訳のような役割を担えるのです。」
この3日間を通して、その言葉の意味を痛感しました。
ただ旅行に行くだけでは、ここまで深い関係性を数日で築くのは至難の業です。
参加者と事前にコミュニケーションをとり、情報交換を行う。
お互いのことを知り住む場所は違っても一つのチームのように同じ目的を達成するという関係性が生まれるのは松江式ワーケーションならではの良さです。
都市部の企業が地方の魅力を再発見し、地域との協力関係を築く。
地方に眠る可能性を引き出すことができれば、企業にとっても、地域にとっても大きな価値を生み出します。
松江市は、自然とビジネスが調和する場所として、都会と地方のビジネスをつなぐ新しい舞台となっています。
松江市の豊かな自然、温かい人々との交流、そしてLinkedInを活用した新しいつながりは、参加者たちにとって忘れられない体験となりました。
仕事と観光を両立させ、心身をリフレッシュすることで、参加者たちはより創造的で柔軟なアイデアを持ち帰ることができました。

ワーケーションは、単なるリモートワークの延長ではありません。
それは、働き方を変え、地方の力を最大限に引き出すための新しいステージです。
松江市でのこのワーケーションは、その可能性を示す重要な第一歩であり、これからも多くの企業や個人にとって、地方とのつながりを深める大きなきっかけとなることでしょう。
もう一つの帰る場所がある、それが何気ない日常でがんばるあなたをあたたかく包み込む。
松江式ワーケーションはそんな架け橋を繋いでくれる体験です。
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